電波を使ったセンシングと融合した無線通信を実現したい
──プラットフォーム学を志した理由は?
防災や農学など、他分野(ドメイン)の知識を手に入れたいと考えました。無線通信の技術は、応用されて初めて意味を持つものなので、「自分の研究がどう応用されるかを考えたい」というのが志望理由です。このプログラムの特色として、座学だけでは手に入らない具体的なフィールドワークや現実世界のデータに向き合う専門的な活動が、分野を横断してできることが挙げられます。様々なユースケースを俯瞰できる機会が得られとともに、これらのユースケースの細部を各分野の専門的な目で見ていくこともでる良い機会になると考えています。
──現在取り組んでいるテーマは?
「Beyond 5G」などと呼ばれる次世代通信に向けた、ミリ波・サブテラヘルツ波通信の電波伝搬特性の計測、および無線センシングと通信の統合です。ミリ波(30 GHz〜100 GHz)通信・サブテラヘルツ波通信(100GHz〜)は従来の利用されてきた電波より高い周波数を用いるため、より高速な通信や混雑エリアでの通信可能なデバイス数の増加などの実現が可能になります。また、ミリ波はリモートセンシングにおいて実用化されており車載レーダーや人体センシングなどに用いられています。そして「無線通信のデバイスを使ってセンシングができないか」というアイデアを元にした通信と統合したセンシングの研究が現在盛んになっており、例えば、ミリ波WiFiを利用した測位や5G基地局を利用した自動車の測位などが研究されています。
私はこれらのシステムから着想を得て、通信の結果をリモートセンシングに活かすだけでなく、逆にリモートセンシングの結果を通信システムにフィードバックすることで、より高品質で安定した通信を実現することを現在考えています。
これにより、現在のミリ波通信の課題である、遮蔽による電波の減衰をビームフォーミング制御・RIS (Reflective Intelligent Surface)やマルチホップなどにより解決し、途切れず高速で安定した実現ができます。
──プログラムを通じて得たものは?
ランチミーティングを通じてほかの学生と交流でき、専門分野ごとに求められる専門的な知識、農業、防災、医療などの社会実装において、(通信のような)基礎分野がどう使われているということと他分野(フィールド)におけるデータ収集の具体的な方法やデータとの向き合い方かを学ぶことができたのは貴重な機会でした。また、各分野の専門家のお話を聞ける講義もあります。プログラミング言語処理系をプラットフォームに絡めて社会実装して応用していく方法から、数理モデルを生物学や地質学など様々な分野に具体的に適用していくためのアイデアなど幅広い分野とレイヤーについて学ぶことができました。
──あなたが作りたいプラットフォームは(ご自分の研究をもととして)?
無線通信デバイスを用いて誰でもリモートセンシングができ、また、センシング結果を用いたより高信頼な通信ができるプラットフォームを実現したいと考えています。現在、電波によるセンシングデバイスは存在しているものの、ミリメートルレベルの高精度なものになると手軽に使えるものが存在せず、ドローンやロボットなどでの利用には精度が足りないのが現状です。また、センシング結果を通信に実際に活かしているシステムは普及しておらず、途切れず高速な無線通信を実現するための重要な一手になると考えています。
そして、研究成果をソフトウェアパッケージや標準化規格に落とし込むことで、これらの用件を誰でも手軽に実現できるプラットフォームにしたいと考えています。
──いまの世界をほんの少し良くしようと思ったら、何が必要だと考えますか? もしくは何をしたいと思いますか?
技術には再現性の担保が大切だと思っており、研究成果の発表を通じて信頼できる技術を世に送り出したいと考えています。再現性というと、自然科学などの硬い分野を想像するかもしれませんが、本当はエンジニアリングにも必要不可欠なものだと思っています。技術というものは信用で成り立っているからで、確実に動いて信用できうるものを実現することに意義があると思います。