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2023.11.01

Vol.23『多様化する決済とプラットフォーム学』


Vol.23『多様化する決済とプラットフォーム学』

2023年11月1日に「プラットフォーム学連続セミナーVol.23『多様化する決済とプラットフォーム学 ~加速度的にサービス種類が増殖している今、何が起こっているのか~』」がオンラインにて開催されました。

モバイル決済ジャーナリストの鈴木淳也氏、PayPay株式会社 経営推進本部コーポレートコミュニケーション部 部長の伊東史博氏が登壇し、鈴木氏が国内外のキャッシュレス決済の現状について、伊東氏が国内ナンバーワンのコード決済サービスPayPayの施策について、それぞれ解説を行うとともに、キャッシュレスの課題や今後の展開についてディスカッションが行われました。進行役は京都大学 プラットフォーム学卓越大学院 プログラムコーディネーターの原田博司教授が務めています。

●キャッシュレス決済のトレンドはモバイルオーダー。現金市場ではまだ伸びる余地あり

まずはリテール向けソリューションや公共インフラ、Fintechなどをテーマに取材活動を続けるジャーナリストの鈴木氏が登壇し、キャッシュレス決済の現在について解説を行いました。キャッシュレス決済には、主にクレジットカード、デビットカード、電子マネー、スマートフォン決済の4つがあります。日本の場合、9割がクレジットカードで、残りをSuicaに代表される電子マネー、PayPayなどのスマートフォン決済が分けあい、諸外国で強いデビットカードは流行っていないというのが現状です。

キャッシュレス決済のトレンドの一つに、スマートフォンを使ったモバイルオーダーがあります。ロンドンのパブではテーブルにあるQRコードを読み込むとメニューが出てきて注文ができたり、ニューヨークでは中華料理をオンラインでオーダーしておくと、予約時間に保温機能のあるロッカーでピックアップできる、店員とのやり取りが全くないシステムもあります。さらには中国のKFCにあるモバイルオーダー端末は顔認証決済ができたり、日本でも東京ドームの顔認証決済「フェイスルー」でドーム内の買い物ができたり、事前登録は必要だがリピーターなら非常に便利なサービスです。このように、クレジットカードなどの物理カードからスマートフォン、次いで生体認証というように、キャッシュレス決済は進化してきています。

続いて登壇したPayPayの伊東史博氏は、キャッシュレス市場について解説。経済産業省が2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」では、当時18%ほどだったキャッシュレス決済比率を2025年までに40%程度にするという目標を掲げ、2022年時点で36%となっています。決済額では8割以上をクレジットカードが占めますが、決済回数ではクレジットカードの53.7%に次いでコード決済が23.8%と、電子マネーの19.9%を抜いています。PayPayはコード決済においては回数でも金額でもナンバーワンとなっています。

PayPayが伸びているポイントとしては、ユーザーの声を愚直に拾い集めてこまめにアップデートすることで、ストレスフリーな決済を心掛けていたり、全国各地に使えるお店を増やすための営業所を持っていて、大都市圏以外でもコード決済が使えるようにしている点が挙げられます。また、キャッシュレス決済市場のポテンシャルとして、TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大の市場規模)があります。日本の個人消費が300兆円あって、そのうちキャッシュレスが2022年時点で36%の111兆円、PayPayは10.2兆円なので市場ポテンシャルに対して3%程度のシェアしかありません。競合には楽天Payやd払いがありますが、それはキャッシュレス市場においてというだけで、現金市場全体においてはブルーオーシャンであり、まだまだ伸びる余地があると説明します。

●キャッシュレス決済の普及における課題と期待される技術とは

後半のディスカッションパートでは、まず原田教授が決済手段の歴史についてまとめ、現在乱立している決済サービスは将来的に収斂されるのか、という質問を投げかけました。鈴木氏は、キャッシュレス決済の読み取り機がたくさんある現状も、いくつかはまとまるかもしれないが、例えば特定のビルが決済サービスを提供していたり、店舗ごとのポイント付与があったり、なかなか収斂しようにもできない業界の慣習があると解説しました。伊東氏も、決済はマネーロンダリングのような不正が行われないなど、安心安全という点にコストをかける必要があり、体力がない企業は徐々に淘汰されていくだろう、と述べました。

PayPayの海外展開について問われた伊東氏は、技術的には相互利用することは可能なので、PayPayは中国のAlipayや韓国のKakao Pay、香港のAlipayHKと連携して日本の加盟店でQR決済が可能です。逆に海外でPayPayが使えない理由は、決済アプリは不正利用やマネーロンダリングなどの悪いことに使われないための国ごとのルール整備が重要で、不正がなくて安心して決済ができる仕組みができれば将来的には使えるようになると現状を解説しました。鈴木氏は、海外の決済サービスが日本で使えるようになったのは、中国やアジアからのインバウンドを取り込もうということで始まった。日本人はクレジットカードを持っているので欧米や観光地では困らないこともあり、海外で日本のQR決済は広がっていないが、そのバランスが逆転することがあれば海外で日本の決済サービスが使われるのも時間の問題だ、と補足しました。

原田教授が、キャッシュレスにおける時間(ジェネレーション)について尋ねると、伊藤氏は通信における3G→4G→5Gのようなジェネレーションが、キャッシュレスだとプリペイドカード→クレジットカード→非接触カード→QRコードに当たるともいえる。今PayPayがQRコードをやっているのは、読み取り機が不要でQRコードを印刷したプラスチックの板1枚でキャッシュレスが導入できるという、お店側の負担が少ない点が大きいと説明。鈴木氏も5年、10年先になれば今のコード決済とは違った手段の決済方法が出てくる可能性はある、と今後を展望しました。

高齢者含む多様なユーザー層にリーチするための施策を問われた伊東氏は、高齢者にも使いやすいPayPayにすることだと説明。シニア用やキッズ用にアプリを用意すると、その数だけメンテや運用に手間がかかるので、1つのアプリで家族全員が使えるようなものを開発していくのが肝要であり、そのために24時間365日体制の電話窓口やSNSでユーザーの声を集めて反映されるようにしている、と述べました。鈴木氏は、決済アプリは本人確認や銀行接続などのステップが多くハードルが高い。例えばスーパーの現金をチャージして使えるカードなど、そういったものも含めてキャッシュレスが拡がっていけばいいとの見解を示しました。

キャッシュレス決済が普及したことによる消費者行動の変化について伊東氏は、ポイントが物理カードからスマートフォンのアプリに変わった点と、コロナ禍もあって家にいながら決済をして物を届けてもらうのが当たり前になった点の2つを挙げました。鈴木氏は、例えばレストランでは、人員不足を解決する手段として、キャッシュレス決済以外にもモバイルオーダーや配膳ロボットなどが導入されて、ビジネススタイルが変わってきている。また、マイナンバーカードによって、窓口での本人確認が不要になるなど、スマートフォンの普及が全体の行動変化のトリガーになった、と述べると伊東氏も、人口減少に対応するためにデジタル化によって社会を効率的に回していくというベースの上に、キャッシュレスが乗っている部分があると思う、と続けました。

オンライン決済の進出が難しい領域はあるかという質問に対して、鈴木氏は税金・公金の分野があると回答。印紙関係を含めてどんどんデジタル化していかないといけないのは国もわかっていて徐々に進めている段階だと解説しました。伊東氏は、電子化すると全部データとして残るので、そこはいい面・悪い面が商売をされる方にはあると思うと意見を述べると、鈴木氏はデジタル化によるメリットよりも生活習慣を変えたくないという人の方が多い。韓国では脱税みたいなのが多くてデジタル化は進まなかったが、キャッシュレスを使って明細を出せば減税するというアメを用意して移行を進めたり、北欧では個人情報もオープンな状態なので、決済の電子化が進むことで日本の確定申告のようなものも自動でできるようになっている。アメとムチを上手く使って電子化を進めるかが日本の課題だと意見を述べました。

今後の期待する技術について鈴木氏はAIとブロックチェーンであると回答。色々と言われているブロックチェーンだが、将来的にトラストをやるのであれば有力な選択肢の一つになる。これに対して伊東氏も、ブロックチェーンを導入することで便利で安全な取引ができるようになるならPayPayで使われる未来もあり得ると展望を語りました。

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