report
2023.11.30
Vol.24『次世代通信とプラットフォーム学』

2023年11月30日に「プラットフォーム学連続セミナーVol.24「『次世代通信とプラットフォーム学」~未来のコミュニケーションを担う持続可能な通信インフラとは~』」がオンラインにて開催されました。
ソニーグループの澤井亮氏、KDDI総合研究所の小西聡氏が登壇し、両社の現在の5Gの活用方法について解説するとともに、5Gのこれからの展望や6Gの方向性、デバイス、メタバースなど通信インフラを基盤とした未来についてディスカッションが行われました。進行役は京都大学 プラットフォーム学卓越大学院 プログラムコーディネーターの原田博司教授が務めています。
●これから本格化する5Gの利活用
冒頭は原田教授による通信の歴史から始まりました。無線通信は1G(アナログ、音声のみ、1980年代)→2G(デジタル化、データ通信、1990年代)→3G(ネット利用、2000年代)→4G(常時接続、2010年代)→5G(高速・大容量、低遅延、2020年代)と10年ごとにアップグレードしてきました。通信の進化に合わせて、デバイスも1G、2G時代の携帯電話から3G時代にスマートフォンへと変わり、4G時代には自分の情報を発信するアプリケーション(YouTube、Instagram、TikTok等)が登場するなどの変化がありました。ただ、いずれの進化も通信がアップグレードされてから5年後くらいから新しいものが出てきており、5Gにおいても2023年現在は新しい技術を見定めている段階です。
続いて登壇したのはソニーグループ本社、ソニー株式会社、ソニーネットワークコミュニケーションズの3つの事業会社の経営を担当する澤井亮氏。ソニーの通信事業は、「人類の変化を支える、インフラへ。」をビジョンに掲げるソニーネットワークコミュニケーションズが手がけています。2013年のサービス開始から10年足らずで100万回線を突破した光回線の「NURO光」を軸に、格安SIMの「NURO Mobile」、インターネットサービスプロバイダ―の「So-net」の他、GPS機能と簡単な通話機能をもつ端末で見守りサービスを提供する「amue link」、ゴルフやテニスのレッスン用のセンサーデバイスと分析AIといったヘルステック分野のサービスも行っています。
5Gをはじめとする次世代通信に関する取り組みとして、「IOWN(アイオン)」「Beyond 5G」「周波数共有」の3つを挙げました。IOWNは、NTTとインテル、ソニーの3社が立ち上げた、光を中心とした革新的技術を活用した高速大容量通信、膨大な計算リソースなどの社会実装を目指したアライアンスです。遠隔医療に必要なアプリケーションの社会実装検討や、放送局や編集拠点とスタジアムやライブ会場をネットワークでつないで番組制作を遠隔で実現するといった事例があります。KDDI、auと協働するBeyond 5Gは、2030年代に導入される次世代の情報通信インフラのこと。新しいモバイルの通信プラットフォーム環境の下で、PlayStation5を活用したリモートゲーミングアプリケーションや、遠隔地でライブの臨場感を楽しむリモートライブエンターテインメント、モバイルアプリケーションサービスプラットフォームなどの検証を行いました。周波数共有は、モバイルトラフィックの急増により世界的に社会問題となっている有限な電波資源の枯渇問題を解決する取り組みで、電波の利用をリアルタイムに監視して、既存の利用者に致命的な電波干渉を与えることなく、新たな電波を利用したい人に再配分する、周波数利用効率を飛躍的に高めることが可能な電波管理プラットフォームのビジネス展開を目指しています。
KDDI総合研究所の小西聡氏は、KDDIが考える通信の将来について解説を行いました。KDDIが2022年5月に発表したKDDI Vision 2030では「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。」というメッセージを発信。5Gを中核に据えた事業変革を経て2030年には社会を支えるプラットフォーマーになろうという目標を掲げています。目標実現のために掲げる施策の一つが「ユーザセントリックネットワーク」です。複数の基地局暗手をうまく連携して、常にユーザーの持つデバイスに高品質なネットワークを提供するというコンセプトで現在実証実験を行っています。
KDDIは5Gを活用するためにカバレッジエリアを重要視しており、そのために米スペースX社の衛星通信「Starlink」を活用しています。Starlinkをau通信網のバックホール回線として利用することで、サービス提供が困難とされていた山間部でも高速な5G通信が可能となります。また、5Gには、通信事業者ではない自治体や企業が自ら免許を取って、基地局を設置して運用する「ローカル5G」という仕組みがあり、大規模な工場や建設現場、スタジアムといった限定したエリアに5Gネットワークを構築できます。これにより通信事業者の5Gがまだ届かない設備に、自らが5Gを導入することでDX化が図れるとしています。
●5Gのこれからと6Gの方向性について
後半のディスカッションパートは「5Gがあまり実感できない」という履修生の声から始まりました。前半部で原田教授による今は見定めている段階であるという説明がありましたが、澤井氏も現在日本には何十万もの基地局があり、システムも複雑化してきているのでどうしても時間がかかってしまうと解説。また、日本の場合は4Gの品質がよく、5Gに変わった時の差が見えにくい。いまだに3Gが支配的な国や地域では、5Gへの進化が劇的に感じられて導入も進みやすい傾向があるかもしれないとの見解を示しました。小西氏も、ブロードバンドな通信を行うには高い周波数を使いたいが、高い周波数の電波はあまり飛ばないので多くの基地局が必要になる。周波数自体も非常に貴重で、5Gの周波数もすでに他の用途で使っている周波数と共用しているので、既存の利用者に迷惑をかけないために、基地局からフルパワーで出力することもできない。そういったところを事業者間のディスカッションなどで調整していて時間がかかっている、と述べました。
Starlinkの出現について感想を求められた小西氏は、私が入社直後に携わった衛星通信は10機で、それでも大変だったがStarlinkは5000機も打ち上げている。今までの衛星通信は遅延時間が課題だったが、Starlinkでは低軌道に多くの衛星が回っているので地上の基地局との距離が近くなり、遅延時間は10分の1以下にまで短縮されてほとんど遅延を感じない。KDDIの前身のKDD時代から衛星通信を扱ってきた知見が、Starlinkという新しい技術で安定した通信を可能にしているバックグラウンドにもなっている、との見解を示しました。
5Gを活用したキラーデバイスやアプリ、サービスについて尋ねられた澤井氏は、新しい事業として自動運転、ドローン、ロボットなどを考えていると説明。現在はスマートフォンが中心だが、XRに対応したメガネ型デバイスに変わっていくかもしれない。ソニーはデバイスベンダーでもあるので、そういったデバイスにどうやってアンテナを設置するかなどのデザインを含めて、5Gを溶け込ませていくかも重要になってくる。また、基地局を介さない車車間通信やロボット同士の通信などもこれから出てくるだろう、と展望を語りました。小西氏も、毎年3月に開催される世界最大級の携帯電話関連展示会MWCでもメガネ型デバイスが増えてきている。以前よりも画質も重さも良くなってきているが、まだまだ進化する余地もあり期待している、と述べました。
2023年12月に始まる6Gの検討の方向性について聞かれた小西氏は3つのポイントを挙げました。一つは世界共通の課題としてトラフィックの増大に対応するためさらなる大容量通信が必要になること。2つ目はミッションクリティカル。ロボットやドローンの遠隔操作または自律的に動かそうとしたとき、通信環境をある一定のレベルに保っておかないと重大な事故につながる危険性があるということ。最後はカバレッジ。スループットの上昇や帯域保証ができるといってもカバレッジがないと話にならない。そのカバレッジも地上だけでなく、ドローンの飛ぶ空中や船が航行する海の上、もしかすると海中まで通信環境を提供していく必要があるかもしれない、と6Gで検討されるポイントについて解説しました。澤井氏は、車の衝突防止レーダーやロボットが人や物を検知するためのセンシングなど、現実世界のオブジェクトをどうネットワークインフラに取り込んでいくかという点に関心を持っているとプラスアルファの意見を追加しました。
メタバースが広がらない理由を問われた小西氏は、KDDIでも2023年から「αU」というメタバースプラットフォームを提供していて、コロナ禍の時に多くのユーザーが参加してくれた。日常が戻ってきてメタバースで何ができるかを考えたとき、ライブやショッピング、コミュニケーションなどのコンテンツを充実させるとともに、見た目や音などメタバース空間をもっとリアルに近づける技術開発といった改善の余地があると述べました。澤井氏は自身の感覚だと前置きしたうえで、10代20代の新しいジェネレーションの人たちは、画質の良さや臨場感よりも楽しければいいといった側面もある。そういった考えとリアリティの進化も含めてコンテンツクリエーションをしていかなくてはいけない、と意見を述べました。