report
2021.06.30
Vol. 1『スマート農業とプラットフォーム学』
2021年6月30日に京都大学・プラットフォーム学連続セミナーの第1回『スマート農業とプラットフォーム学』が開催されました。
ゲストには日本テレビで人気番組『ザ!鉄腕!DASH!!』を手掛けるプロデューサーの島田総一郎氏、ヤンマーアグリ株式会社 開発統括部 技監 先行開発部長の日高茂香氏、株式会社オプティム 取締役 ビジネス統轄本部 本部長の休坂健志氏、京都大学大学院 農学研究科地域環境科学専攻の飯田訓久教授を招き、当学プログラムコーディネーターの原田博司の司会で、スマート農業とプラットフォーム学の現状や課題に関して活発な議論が繰り広げられました。
●精密農業からスマート農業へ
多種多様な領域を扱い、定義が難しいプラットフォーム学ですが、様々な形で収集した農業データを取り扱い、生産性の向上や新しい農産物の流通のあり方を考えていくスマート農業は大変親和性の高い分野です。
飯田教授は農業機械、空撮、GPSなどを通じ、土地に紐づいた情報を活用し、農業管理に役立てる「精密農業」の研究を長く続けていらっしゃいます。ここからさらに進み、AIやクラウドといった情報通信技術を活用しながら、人手不足や農地の中間管理といった社会課題の解決に取り組んでいくのがスマート農業です。現在ではWAGRIと呼ばれる、農業データの連携基盤も登場してきており、効率的で品質の安定した作物の栽培だけでなく、市場に求められる適切な数量の生産を実施し、効果的なサプライチェーンを作り上げる流通分野への広がりも期待されています。
オプティムはディープラーニング技術やIoT技術を応用した、農業に役立つプラットフォームの開発を続けています。病害虫を検知する画像処理技術は、医療分野でレントゲン画像から病巣を把握する技術との共通点も多いということで、共通の基盤技術を活用しながら、他分野に横展開していくまさにプラットフォーム学的なアプローチでスマート農業に取り組んでいます。空撮画像から被害部分を把握し、ドローンを使って農薬散布など、すでに多くの事例がありますが、面積が小さく、小規模でも初期コストを掛けず、収支も合わせていくといった課題に対して、生産者から生産したお米を全量買い取り、自社ブランドで販売したのち、レベニューシェアをしていくといった、流通面での実験的な取り組みも実施しています。
ヤンマーアグリは2018年10月にロボットトラクター/オートトラクターを商品化。自動運転技術を活用した耕作機械の開発をしています。こうした機器の稼働状況を把握することで、圃場の位置、植え付けの進捗状況の把握や有機作業などの進捗度合、収穫量の解析などもできるとのことです。今後は機械学習や類推による農作業の把握だけでなく、地域やコミュニティにより沿ったよりきめ細かな分析や圃場に合わせた最適な肥料の量、残渣物などを利用した資源循環といった分野まで領域を広げたいと考えているそうです。
●農を業として、持続可能なものにする
参加者が集まったパネルでは、こうしたスマート農業の現状を踏まえつつ、作る喜びがある農と、それを仕事として継続していく業の両立という視点が示されました。
農業は本来的に単価が低いもので「たくさん作って売ってもうける」ことが基本にあります。そのため、規模の拡大が必要となり、その目的を果たすためには、ロボットやセンシング技術を活用し、なるべく人手をかけず、効率的な運用をしていくことが求められていくでしょう。従来の日本の農業は小さな面積で地域や家族の生業としてするものが中心になっていました。これを残す一方で、農業をどう産業として残していくかが課題になっています。
「農は楽しいが農業として生業になると苦さが出る」という日高氏の言葉は、印象的な言葉でした。日本テレビの島田氏は、ザ!鉄腕!DASH!!の番組作りで農業を取り上げる際、出演者が土や自然と格闘しながら、苦労して収穫にこぎつける物語性にフォーカスしているとし、「農業に疎い人間でも、物語として農業には入り口(種蒔き)と出口(収穫)があり、未来な世界と農業の土臭い部分がつながるのがワクワクする」点であるとコメント。
その一方で、「スマート農業はこのプロセスの部分で、労力をかけずに済ませ、無駄なものを最適な量に調整するなど、僕らが苦労として描きがちな部分を効率化するものだと理解した」という感想も述べていました。
日高氏は「(100haを超すような)大規模の農業では否応なく効率化が求められる」としたうえで、「(2ha程度と)小規模な集落農業を手掛ける農家では後継者問題などもあり、自分たちで終わりだと考えている人が多い」と、農を業として継続していくうえで日本の農家が抱える課題を投げかけました。人手不足・後継者不足に悩む農家では先祖から受け継いできた土地を農業法人に管理を委託するといった動きがみられます。こうした変化の中で、プラットフォームが果たすべき役割は大きいでしょう。また、単純に農作物を生産するだけでなく、小規模でも作物に付加価値が出せる新しい農業流通の仕組みも求められてきます。そのためには、地方自治体、農協、コミュニティなどの在り方、新しい商品流通の流れなども検討してく必要があります。
百姓は百のことを知らないとできない職業でもあります。これを技術に落とし込むということは、ゲノム、土壌、機械の運転など、すべてを手掛ける必要があります。また、オプティムで九坂氏が米の栽培を実証したところ、農家が田んぼに脚を運ぶ回数は1サイクルあたりおおむね100回程度にもおよび、その大半が異常のない(何も起こっていない)ことの確認だそうです。ここにセンサーなどを導入していけば、最大で15回程度まで減らすことができ、大きな効率化ができるそうです。
プログラムコーディネーターの原田教授は、セミナーを通じて、スマート農業とプラットフォーム学に関する多くの知見が得られたと総括したうえで、「重要なのは入り口をしっかり作って広げるプラットフォームであり、農業に携わる人に供給するプラットフォーム」であるとコメントしました。その中でも大規模なものと地域に根差したものがある点や、国が提供するスマート農業向けプラットフォームのWAGRIを使って、効率性を高められる一方で「農を業にするためのギャップがまだまだあると実感した」とし、「業でありながらも、それを楽しくするアウトリーチも必要であり、農と業のギャップを減らすための課題を明確化し、共有していくことをプラットフォーム学の課題として取り組みたいとしました。