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【特別インタビュー】『全成分を資源循環させるリサイクル技術、持続可能な社会の実現に関わるプラットフォームへのヒントは?』

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プラットフォーム学では、社会課題を解決しうるプラットフォームを構築するため、さまざまな事例に触れる機会も重視している。ここでは資源循環をテーマにした研究を紹介する。

SDGsの目標の1つとして掲げられている「つくる責任、つかう責任」では、持続可能な社会実現のためにゴミの削減、そしてリサイクルやリユースの推進が掲げられている。産業技術総合研究所(産総研)東北センター所長/化学プロセス研究部門長の山口有朋氏は資源循環、プラスチックリサイクル、バイオマスの有効利用など、その目標の一助となる技術の研究をしている一人。今回は、山口氏にこれまでの研究の経緯や社会実装への思いなどについてお話を伺った。

産業技術総合研究所 東北センター所長/化学プロセス研究部門長 山口有朋氏

●すべての成分を資源循環させるシステムを目指す山口氏の研究

山口氏が現在取り組んでいる研究は大きく分けて二つ。一つはバイオマス資源の全成分有効利用、もう一つはプラスチック、その中でも複合素材のリサイクル技術だ。バイオマス研究では、植物資源を構成するセルロース、ヘミセルロース、そしてほとんど再利用されてこなかったリグニンの3成分すべての全成分有効利用を目指している。

セルロースは紙やパルプとしてすでに広く使われており、ヘミセルロースも化学変換によってプラスチック原料や燃料などに利用できる。これらは約190度前後の水で処理することでソルビトールなどの有用な化合物へと変換できる。この生成物は食品やプラスチック原料として利用可能だ。

残る成分のリグニンは、例えば製紙産業などではセルロースだけを取り出し、残ったリグニンは燃料として燃やされてしまい、材料としては使われてこなかった。山口氏の研究ではこのリグニンをさらに高温条件で処理して分解し、プラスチック原料として利用可能な構造化合物へと変換する。これらの反応に用いる固体触媒が繰り返し使用できる点も大きな特徴だ。

「セルロースやヘミセルロースだけでなく、リグニンも含めて全部を使う。複合フィルムも、片方だけでなく両方をリサイクルする。これをきちんと技術として成立させたいという思いがあります」(山口氏)

もう一つの研究テーマであるプラスチックリサイクルは、特に複合フィルムに焦点を当てている。食品包装材などに使われる、PET(ポリエチレンテレフタレート)とポリエチレンなどの複数素材を貼り合わせたプラスチックはほとんどリサイクルされずに燃やされているが、山口氏は水だけで処理し、PETはケミカルリサイクル、ポリエチレンはマテリアルリサイクルにする「ハイブリッドリサイクル」という技術を開発している。

ケミカルリサイクルでは、圧力をかけて300度程度に高めた高温高圧の水を用いてペットボトルのPETを10分ほど処理することで、PETが原料であるモノマーまで戻るので、再度重合してプラスチックにすることができる。マテリアルリサイクルでは、ポリエチレンを溶かして固め、プラスチックとして再利用できるようになるが不純物が入ってしまうため繰り返すことで劣化するのが難点だ。

高温水によるPETのモノマー化
「バイオマスの分解やプラスチックのリサイクルはいろいろな研究例がありますが、「全部をうまく使います」とか、「複合フィルムを両方ともリサイクルします」というのはできていないし、研究している人もあまりいません。自分の考えとしては資源すべてを使わなければいけないと考えています」(山口氏)

PETを水だけで元の分子に戻す技術は20年以上前から研究されてきた技術だが、当時は回収されたPETボトルの多くを海外に輸出していたため、国内ではリサイクルがあまり進んでいなかった。近年は、特に中国が廃プラスチックの輸入を停止したため、日本国内でのリサイクルの必要性が高まり、現在では7割近くのPETが国内でリサイクルされていると山口氏は語る。

「技術はあっても、コストの問題で社会に広まらないという現実はあります。ただ最近は、企業側の意識も変わってきていると感じています」と山口氏が語るように、資源循環の課題として、技術そのものよりも社会実装の難しさが挙げられる。技術的には分解や再利用が可能であっても、コスト面で石油由来の素材に太刀打ちできない場合、社会には広がりにくい。しかし近年では、多少コストが高くてもリサイクル素材やバイオマス由来素材を使おうとする企業が増えつつあるという。

例えばガラスは洗えば何度でもリサイクルできるが輸送にガソリンを使ってCO2を多く排出する。PETはガラスに比べて軽いのでCO2の排出が少なくて済む。「どちらがエコか。何度でも使えるからエコだという単純な話ではない」と語る山口氏は、コストの優位性よりもCO2削減への危機意識が企業を含む社会全般に浸透しつつあると見ている。

廃プラリサイクル技術の現状

●誰もやっていないことにチャレンジしたいという研究者としての矜持

山口氏が学生時代に固体触媒を選んだ理由は「単純に面白そうだと思った」ことだけでなく、この分野に未解明な部分が多く残されていることだという。固体触媒は反応メカニズムの解明が進められてきたとはいえ、実際には経験則や試行錯誤に頼る部分も少なくない。「なぜこの触媒がこの反応に効くのか」が明確に説明できないケースも多く、そこにこそ研究の余地があると感じたと山口氏は語る。

「固体触媒は謎の部分が多い分野。どうしてこの触媒がこの反応にいいのか、分かっていないことも多い。だからこそ、やることがたくさんあると思えました」(山口氏)

山口氏は東京大学理学部化学科で4年生から固体触媒の研究をはじめ、その後、東京大学大学院の修士課程、博士課程で岩澤康裕教授の元、排ガス処理のためのNO還元反応や、触媒構造解析などに取り組んだ。博士課程終了後は、東京理科大学で燃料電池触媒の研究を行い、さらにアメリカでポスドクとして天然ガスの改質研究に携わっている。産総研には2007年から移り、バイオマス資源の有効利用やプラスチックリサイクルに取り組んでいる。

山口氏自身は「テーマは少しずつ変わっているが、基本的には一貫している」と語る。産総研で最初に与えられたテーマは、リグニンをガスに変換する研究だった。しかし研究を進める中で、リグニンはガスではなく、化学品原料として利用できる分子に変換できる可能性が見えてきた。そこから現在の研究を進めている。

現在、部門長としてマネジメントの立場にあるが、研究者としての根本的な姿勢は変わらず、「今までに誰もやっていない新しいことに挑戦する」ことを最も重視しているという山口氏は、新しい研究テーマは突然のひらめきから生まれるというよりも、与えられたテーマに真剣に向き合う過程で見えてくることが多いと考えている。産総研では方向性やテーマを提示されるが、その中で試行錯誤を重ねるうちに、別の切り口があるのではないか、もっと面白い展開ができるのではないかという発想にたどり着いたといい、リグニン研究もその積み重ねの中から生まれたと語った。

「研究者として新しいことに取り組みたいという思いが強いです。今までに誰もやっていないことにチャレンジしたい、という気持ちはずっと変わっていません」(山口氏)

山口氏は新しい研究に取り組む際に、その分野の論文を丹念に調べ、何がすでに実現され、何がまだ分かっていないのかを整理することから始めるという。研究者の中には、論文を読みすぎるとひらめきがなくなるとして論文をあまり読まない人もいると語る山口氏は、論文を読み込んだ上で「まだできていないこと」「まだ明らかになっていないこと」に焦点を当て、新しい技術開発、新しい領域を広げていくことが自身のスタンスだと述べた。

そうして新たな研究に取り組む上で山口氏が譲れない点は、研究成果が最終的に社会で使われることを前提にテーマを設定するという姿勢だという。産総研に所属する研究者として、技術を社会に届けることを常に意識しながら研究を進めている。どれほど優れた研究でも、研究室の中だけで完結してしまっては意味がなく、テーマ設定の段階から「最終的に使ってもらえるか、多く使ってもらえるか」を考えるようにしているという山口氏は研究者として自然に身についた考え方だと語る。

その社会実装を意識しながら、自身がその研究を面白いと思え、熱意を持って取り組めるかが、研究において特に重要だと山口氏は考えている。この研究は面白いと感じながら取り組むことで、自然と前向きになり、結果にもつながりやすいという。逆に、義務感だけで続ける研究は成果を生みにくい。バイオマスやプラスチックの研究に強い面白さを感じられたことは、研究を続ける上で大きな支えになったという。

「自分自身、バイオマスやプラスチックを水で処理する研究を、とても楽しいと感じながら取り組めました。それが一番良かった点かもしれません」(山口氏)

また山口氏は、自身の研究グループならではの強みを明確にすることを重視している。産総研は大学の研究室とは異なり、学生が大量に所属しているわけではない。そのため、固体触媒という分野で論文数を積み重ねる戦い方は現実的ではない。そこで山口氏が選んだのは他にはない技術を作るという戦略だ。固体触媒と高温の水を組み合わせるというアプローチでは産総研が一番だと言える独自性を打ち出そうと考えた。その結果として、有害物質を使わない、水を利用したプロセス、小型で地域分散型の装置といった特徴が生まれている。

「固体触媒の分野で、論文数で世界一を目指すのは現実的ではありません。だからこそ、固体触媒と高温の水を組み合わせるなど、他にはない技術をつくろうと考えました」(山口氏)

●社会で実際に使われることを意識することと、異分野との接点で生まれる新たな地平線

「産総研なので、技術を社会で使ってもらうことはすごく意識しています」という山口氏自身が取り組んでいる研究はまだ社会で使われていると言える段階には至っていないという。企業との共同研究を通じて、社会実装に向けた手応えを感じる場面は増えてきているが、研究者は技術を生み出す立場だが、その技術を実際に使うのは企業であり、最終的に社会で使われるかどうかは、企業が本気で取り組むかどうかにかかっている。

産総研で行われている企業との共同研究はリサイクルを専門とする企業に限らず、プラスチックやフィルムなどのものづくりを行っている製造系の企業が中心だという。近年では、バイオマスの活用やプラスチックリサイクルに本気で取り組もうとする企業が増えており、その姿勢の変化を強く感じていると山口氏は語る。多層プラスチックフィルムをはじめとしたテーマでは、印刷会社や化学メーカーなど、実際の製造現場を持つ企業が共同研究に参加している。社会への実装は、企業が本当にやると決断できるだけの技術水準に到達できるかどうかがポイントだ。

「企業と共同研究をすると、自分の技術をどのように見てくれているかが分かります。企業の人が『こうやって使いたい』と思っていることも伝わってきます」(山口氏)

そのために必要なのは研究成果の新規性だけではなく、安全なプロセスであること、コストが現実的であることなど、企業が実際に導入を検討する際に重視する要素を満たしているかどうかが問われるという。こうした点については、共同研究の中で企業と議論を重ね、一歩ずつ使われる技術に近づいていく。そのプロセス自体が研究の重要な一部となっていると山口氏は語る。

産総研ビジョン

イノベーションは、必ずしも同じ分野の延長線上から生まれるとは限らないという山口氏は、異なる分野との接点にも可能性を感じている。化学系の企業と話す機会は多いが、それ以外の分野とも対話することで、思いがけない発想が生まれるかもしれないと考えているという。過去には「触媒とお笑いを結びつける」といった、分野を越えた発想を持つ研究者もおり、そうした自由な発想が新しい視点をもたらすこともある。音楽など、化学とは直接関係がないように見える分野との接点にも関心を示していた。

また、研究部門全体の動きとして、AIや機械学習の活用も進んでいる。触媒分野でも、AIを用いて優れた触媒を見つけ出そうとする取り組みが広がっており、イノベーションの形は確実に変わりつつある。分野を固定せず、既存の枠組みにとらわれないこと。未知に対して好奇心を持ち続けること。山口氏は、その姿勢が新たなイノベーションにつながっていくと考えている。

「まったく違う分野でも、何がきっかけになるか分からないので、音楽など、触媒から離れたジャンルと話してみるのは面白いかなと思っています」(山口氏)

●研究者集団のマネジメントと次世代へ託す思い

産総研で東北センター所長/化学プロセス研究部門長として組織を率いている山口氏に、研究者、そしてその集団となる組織についての考え方を尋ねてみた。研究者にはいろいろなタイプがおり、能力も性格もキャラクターも異なる。コツコツと一人で積み上げるタイプもいれば、周囲と議論しながら進めることを好むタイプもいる。そうした多様な人材をどう組み合わせ、どう配置するかが、組織運営で重要だという。

ただ、産総研では研究テーマを軸に人を配置せざるを得ないケースもあり、必ずしも理想通りにいくとは限らない。研究テーマを設定すると、関わるメンバーがある程度自動的に決まることも多い。人を自由に選べるわけではなく、性格や考え方の違いから行き違いが生じることもある。そうした中で、チームをどうまとめるかについて、山口氏は組織構造を重視している。

産総研では、部門長の下に複数のグループ長がいて、それぞれのグループに5~6人の研究者が所属する体制を取っている。日々のマネジメントは基本的にグループ長に任せ、部門長としては「グループ長を誰に任せるか」を最も重要な判断と位置づけ、その上でメンバーを配置していく。グループ長には、研究者の伸びしろを潰さず、研究の方向性をきちんと示しながら、前向きに研究を進めさせられる人を配置することが重要だと語った。

個々の研究者については全員が研究者として成果を出し続けることが重要で、特定の誰かだけを伸ばすのではなく、全員を伸ばそうとする姿勢で向き合っているという。また、伸びる可能性のある研究者に対しては、過度に干渉しないことも重要だという山口氏。上に立つ立場として、つい口出ししたくなる場面はあるが、あまり細かく指示を出しすぎると、かえって研究者の芽を摘んでしまう可能性がある。そのバランスは難しいが、個々の能力の評価よりも、多様な研究者がそれぞれの力を発揮できる環境をどう整えるかが山口氏のマネジメントにおける考え方の基本となっている。

「本当に伸びる研究者に対しては、あまりうるさいことを言わないで、潰さないようにする、というのも大事だと思っています」(山口氏)

また、山口氏は若い研究者や、これから研究者を目指す学生に向けて、「研究に対する熱意」の重要性を強調する。自分が本当に興味を持ち、熱意をもって研究に取り組むこと。そしてそれを一時的なものではなく、長く続けていくことが何よりも大切だと語る。

さらに学生からよく聞かれる「自分のやりたいテーマが見つからない」という悩みに対し、視野を広く持つことを勧めた。必ずしも最初から自分の強い興味や関心と結びついていなくても、新聞などを通じて社会が抱えている課題に目を向けることが出発点になる。特定の分野に閉じこもるのではなく、さまざまな分野に目を向けることが、研究テーマと出会うきっかけになるとアドバイスする。

山口氏は最後に、次の世代の研究者に目を向けてほしいテーマとして「地球環境」を掲げた。CO2濃度や地球の平均気温といったデータを見ていくと、人類はすでに危機的な状況にあるのではないかと感じていると強い危機感を示す山口氏。平均気温が1度、2度と上昇し続ける中で、人間そのものは高温に耐えられるかもしれないが、農作物や魚といった食料資源、植物などの変化はすでに顕在化しつつある。

そうした背景から、CO2濃度をこれ以上増やさないための研究分野は、今後ますます重要になると山口氏は語る。自身の研究テーマである資源循環もその一つだが、CO2の分離・回収技術など、今後さまざまなアプローチが必要で、そうした技術として実際に使えるものを開発していくことが欠かせないといい、次世代に託したい研究として訴えかけた。

持続可能性は社会課題の解決にとって重要な要素だ。資源循環に対する研究は、現場領域で解決に取り組む課題のひとつとして、プラットフォーム構築のヒントになり得るだろう。

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